弁証法的行動療法(DBT)とは、強い感情の波に飲み込まれそうなとき、自分を傷つけずに乗り越えるための心理療法です。もともと境界性パーソナリティ障害の治療として開発されましたが、現在はうつ、摂食障害、PTSD、慢性的なストレスを抱える方にも広く活用されています。DBTの最大の特徴は、「今の自分をそのまま受け入れること」と「変化を目指すこと」を同時に大切にする点にあります。この記事では、DBTとは何か、どんなスキルが含まれるのか、そして日常生活にどう取り入れられるかをわかりやすくお伝えします。感情の激しさや人間関係のつらさに悩んでいる方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。

弁証法的行動療法(DBT)とはどんな療法か

DBT(Dialectical Behavior Therapy)は、1980年代にアメリカの心理学者マーシャ・リネハン博士によって開発されました。「弁証法的」という言葉は難しく聞こえますが、要するに「一見矛盾するように見える二つのことを、同時に大切にする」という考え方です。

たとえば、「今の自分はこれで十分だ(受容)」と「もっとうまくやれるよう変わりたい(変化)」という二つの気持ちは、どちらも本物です。DBTはこの両方を否定せず、バランスをとることを目指します。

認知行動療法(CBT)をベースにしながら、マインドフルネスの要素が加わっているのもDBTの特徴です。頭で考えるだけでなく、今この瞬間の感覚や感情に気づく練習も含まれています。

DBTが特に役立つ場面とは

DBTが効果的とされるのは、感情の波が激しく、気づくと衝動的な行動をとってしまうというパターンがある方です。たとえば、些細なことで深く傷ついたり、怒りが爆発して後悔したり、誰かに見捨てられる恐怖が強いといった経験に心当たりがあるかもしれません。

職場でのパワハラや慢性的な長時間労働によるストレスから、感情コントロールが難しくなっているケースも少なくありません。厚生労働省の調査によると、仕事に強いストレスを感じている労働者は全体の約53%にのぼります。DBTのスキルは、そうした日常のストレスへの対処にも応用できます。

また、自傷行為や自殺念慮がある方に対しても、DBTは国際的に根拠のある治療法として認められています。2015年にPsychological Medicineに掲載されたメタ分析では、DBTが自傷行為と自殺未遂を有意に減少させることが確認されています。

DBTの4つのコアスキル

DBTには4つの柱となるスキル領域があります。それぞれが日常のさまざまな場面で使えるよう設計されています。

  • マインドフルネス:今この瞬間に意識を向け、感情や思考をジャッジせずに観察する練習です。他の3つのスキルすべての土台になります。
  • 苦悩耐性(ディストレス・トレランス):つらい状況をすぐに解決できないとき、衝動的な行動をとらずに乗り切るための技術です。たとえば、感情が高ぶったときに冷水で顔を洗う、激しい運動をするなど、身体感覚を使って気持ちを落ち着ける方法が含まれます。
  • 感情調整:感情のメカニズムを理解し、激しい感情の波を小さくしていくスキルです。睡眠・食事・運動など生活の基盤を整えることも、このスキルに含まれます。
  • 対人関係の効果性:自分の気持ちや希望を相手に伝えながら、関係を壊さずに済むコミュニケーションの方法を学びます。断ることが苦手な方や、頼み事が難しい方に特に役立ちます。

これらのスキルは、カウンセリングの場だけでなく、日常の中でコツコツと練習することで身についていきます。

「苦悩耐性」スキルを日常で試してみる

DBTのスキルの中でも、すぐに試しやすいのが「苦悩耐性」です。感情がピークに達したとき、とにかく今この瞬間を安全に乗り越えることを目的としています。診断や治療がなくても、日常のヒントとして取り入れられるものが多くあります。

たとえば「TIPP」というテクニックがあります。Temperature(体温を変える)、Intense exercise(激しい運動)、Paced breathing(ゆっくりとした呼吸)、Paired muscle relaxation(筋肉の緊張と弛緩)の頭文字をとったものです。感情が爆発しそうなとき、まず冷たい水で顔を洗うだけでも、身体の反応が落ち着くことがあります。

また、「ACCEPTS」というスキルは、注意をほかに向けることで感情の嵐をやり過ごすものです。好きな活動をする、誰かに貢献する、比較の視点を変えるなど、状況を一時的にやり過ごすための行動リストを持っておくことが助けになります。

DBTはオンラインカウンセリングで受けられるか

「カウンセリングに行きたいけれど、職場や知人に知られたくない」と感じる方は多いです。日本ではまだカウンセリングの利用率が低く、国立精神・神経医療研究センターの調査でも、精神的な問題を抱えながら専門家に相談しない方が大半であることが示されています。

オンラインカウンセリングは、自宅から匿名で受けられるため、そうした不安を軽減しやすい選択肢の一つです。DBTのスキルトレーニングは、対面と同様にオンラインでも提供されており、2020年にJournal of Medical Internet Researchに掲載された研究では、オンラインで提供されるDBTプログラムが感情調整と自傷行為の軽減に有効であることが示されています。

料金の目安は1回あたり¥5,000〜¥12,000程度です。「まず一度話してみる」という気軽な気持ちで始めてみるのも、一つの方法です。

DBTと他の心理療法との違い

DBTはしばしば認知行動療法(CBT)と比較されます。CBTが「考え方のゆがみを修正する」ことに重点を置くのに対し、DBTは「感情そのものと上手につきあう」ことに力点があります。特に感情の激しさが中心にある場合、DBTの方がフィットしやすいといわれています。

また、マインドフルネスベースの認知療法(MBCT)とも似ていますが、DBTはより具体的なスキルのリストとロールプレイを重視します。「理論を理解する」よりも「実際に練習する」ことを大切にしている点が特徴です。

どの療法が自分に合っているかは、カウンセラーと話し合いながら決めるのが一番です。「DBTを受けたい」と最初から伝えることも、もちろん可能です。

よくある質問

弁証法的行動療法(DBT)はどんな人に向いていますか?

感情の波が激しく、衝動的な行動や自傷行為に悩んでいる方に特に有効とされています。境界性パーソナリティ障害のほか、うつ、摂食障害、PTSDを抱える方にも広く活用されています。強いストレスや対人関係の難しさを感じている方にも、DBTのスキルは役立つことがあります。

DBT DBTとはどのくらいの期間かかりますか?

標準的なDBTプログラムは6ヶ月〜1年程度を目安にしていることが多いです。ただし、スキルの一部だけを取り入れる短期的なアプローチも存在します。カウンセラーと相談しながら、自分のペースで進めることができます。

DBTは薬物療法と組み合わせて受けられますか?

はい、DBTは薬物療法と並行して受けることができます。心療内科や精神科での治療を続けながら、カウンセリングとしてDBTのスキルトレーニングを取り入れるケースは多くあります。両方のアプローチが補い合うことで、より安定しやすくなることがあります。

DBTのスキルは自分で練習できますか?

はい、DBTのスキルの多くは日常生活の中で一人でも練習できます。ただし、自傷行為や強い感情の波が続いている場合は、カウンセラーのサポートのもとで取り組む方が安全です。書籍やワークブックを活用しながら始めてみるのも一つの方法です。

オンラインでDBTのカウンセリングを受けることはできますか?

できます。オンラインで提供されるDBTプログラムの有効性は研究でも確認されており、自宅から匿名で受けられるため、プライバシーを大切にしたい方にも利用しやすい選択肢です。料金の目安は1回¥5,000〜¥12,000程度です。

DBTと認知行動療法(CBT)はどう違いますか?

CBTが「考え方のパターンを変える」ことを中心に置くのに対し、DBTは「感情の激しさとつきあう具体的なスキル」に重点を置いています。2021年にClinical Psychology Reviewに掲載されたレビューでは、感情調整の困難さが中心にある場合、DBTがCBTよりも有効である可能性が示されています。どちらが合うかはカウンセラーと相談するのが一番です。

DBTは保険適用になりますか?

日本では、医療機関で提供される場合は保険適用になることもありますが、民間のカウンセリングサービスは基本的に自費となります。職場のEAP(従業員支援プログラム)が利用できる場合は、無料や割引で受けられることもあるため、勤務先に確認してみるのも一つの方法です。

出典

もし感情の波がつらく感じられることが続いているなら、一人で抱え込まずに、カウンセラーと話してみるのも一つの方法です。あなたのペースで、安心して始められる場所があります。

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