EMDRは、トラウマや過去のつらい体験が、現在の不安や恐怖、身体反応などにつながっているときに用いられる心理療法の一つです。この記事では、EMDRの基本的な考え方や対象となる悩み、セッションの流れ、一般的なカウンセリングとの違い、オンラインで相談する際に知っておきたいことをわかりやすく説明します。
EMDRとはどのような心理療法ですか?
EMDRは、つらい出来事に関連する記憶を、現在の生活に過度な影響を与えない形で整理していくことを目指す心理療法です。左右交互の刺激を用いながら記憶を扱う点が特徴で、PTSDに対する心理療法の一つとして国際的に研究されています。
EMDRは、正式には「Eye Movement Desensitization and Reprocessing」といい、日本語では「眼球運動による脱感作と再処理」と呼ばれます。1980年代に開発され、その後、トラウマやPTSDに対する心理療法として研究が重ねられてきました。
EMDRでは、つらい記憶をただ詳しく話し続けるのではなく、その記憶に関連するイメージや感情、身体感覚などに注意を向けながら、カウンセラーによる左右交互の刺激を用いて記憶を扱います。刺激には、指の動きだけでなく、音などが使われる場合もあります。
たとえば、交通事故の後から車に乗ることが怖くなった場合、事故に関連する記憶を思い出すことで強い恐怖や動悸が起こることがあります。EMDRでは、そのような記憶と現在の反応との関係を丁寧に確認しながら、少しずつ記憶を処理していきます。
トラウマによる身体反応について詳しく知りたい場合は、トラウマによって身体が警戒状態になる仕組みについての記事も参考になります。
EMDRはどのような症状や状況に用いられますか?
EMDRは主にPTSDに対する心理療法として研究されており、トラウマに関連する記憶や反応を扱うために用いられます。具体的な適応については、現在の症状や生活状況、心理的な安定性などを踏まえて専門家が判断します。
EMDRが検討されることがあるのは、たとえば次のような場合です。
- 事故や災害、暴力などの出来事が繰り返し思い出される
- 過去の出来事をきっかけに強い恐怖や不安が起こる
- 特定の状況や場所を避けるようになった
- つらい記憶に関連して身体が強く反応する
- 過去の体験が現在の生活や人間関係に影響している
- PTSDと診断されている、またはその症状が気になっている
世界保健機関(WHO)は、PTSDに対する心理的介入の一つとしてEMDRを推奨しています。日本でも、トラウマやPTSDに関する研究・臨床が行われています。
一方で、強い不安やパニック、抑うつなどがあるからといって、必ずEMDRが適しているとは限りません。症状の背景や現在の状態によって、別の心理療法や支援が適している場合もあります。
そのため、「EMDRを受けたい」と最初から方法を決めるよりも、まず現在困っていることを相談し、自分に合った支援方法を一緒に検討することが大切です。
EMDRのセッションはどのように進みますか?
EMDRでは、最初からつらい記憶を詳しく扱うわけではありません。まず現在の状態やこれまでの経緯を確認し、安心してセッションに取り組める準備ができているかを確認してから、記憶の処理へ進みます。
EMDRは一般に8つのフェーズで構成される方法として説明されています。実際の進め方は、相談する人の状態や治療計画によって異なります。
初期の段階では、次のようなことを確認します。
- 現在どのようなことで困っているか
- これまでにどのような体験があったか
- 不安や恐怖などの症状がどのように現れているか
- 身体にどのような反応が起こるか
- セッション中に気持ちを落ち着けるために使える方法があるか
準備が整った段階で、特定の記憶に関連するイメージ、感情、身体感覚などに注意を向けながら、左右交互の刺激を用いて記憶を処理していきます。
ただし、すべての人が同じ順番やペースで進むわけではありません。特に強い不安やトラウマ反応がある場合には、安定した状態をつくることを優先することがあります。
また、EMDRに必要な回数や期間を一律に決めることはできません。扱う体験の内容や症状、現在の生活状況などによって異なるため、初回の相談で見通しを確認するとよいでしょう。
EMDRと一般的なカウンセリングはどう違いますか?
一般的なカウンセリングでは、現在の悩みや感情、考え方、人間関係などについて話しながら整理していくことが多い一方、EMDRではトラウマに関連する記憶や身体感覚を扱い、左右交互の刺激を用いて記憶の再処理を進める点に特徴があります。
カウンセリングでは、たとえば「最近ずっと不安が続いている」「人間関係で悩んでいる」といった現在の問題について、話しながら状況を整理していきます。
EMDRでは、それに加えて、現在の反応と過去の出来事との関連を確認しながら、特定の記憶を心理療法の中で扱うことがあります。
また、EMDRではトラウマについて最初から詳細を語り続けることが必須というわけではありません。ただし、必要な情報をカウンセラーと共有し、安全に進められる状態を確認することは重要です。
「過去の出来事について詳しく話すことに抵抗がある」という場合でも、相談の段階でその気持ちを伝えることができます。EMDRだけに限定せず、どのような方法なら安心して相談できるかを専門家と一緒に考えることが大切です。
心理的な相談先をオンラインで選ぶ際のポイントについては、オンラインカウンセリングの選び方も参考にできます。
日本でEMDRを受けるにはどうすればよいですか?
日本でEMDRを検討する場合は、EMDRに関するトレーニングや資格・認定制度について確認したうえで、現在の症状や相談内容を事前に伝えることが大切です。EMDRを希望していても、別の支援方法が適している場合があります。
日本では、日本EMDR学会(EMDR Japan)がEMDRに関する情報提供やトレーニングなどを行っています。相談先を探す際には、カウンセラーがどのような訓練を受けているのか、どのような悩みに対応しているのかを確認すると安心です。
また、現在はオンラインカウンセリングという選択肢もあります。自宅から相談できるため、移動時間を確保しにくい場合や、近くに希望する相談先がない場合にも利用しやすい方法です。
オンラインで相談できるサービスや、対応している相談内容については、オンラインで利用できるカウンセリングサービスから確認できます。
ただし、すべてのカウンセラーがオンラインでEMDRを提供しているわけではありません。EMDRを希望する場合は、対応の可否や具体的な方法について、予約前に確認することをおすすめします。
費用やセッション形式、対応可能な相談内容などを確認し、自分に無理のない条件で継続できる相談先を選ぶことも大切です。
EMDRを検討する前に知っておきたいことはありますか?
EMDRはPTSDなどに対するエビデンスのある心理療法の一つですが、すべての人やすべての悩みに適しているわけではありません。現在の安全や生活の安定性、症状の程度などを含めて、専門家と適応を検討する必要があります。
特に、現在も危険な状況が続いている場合や、強い解離症状などがある場合には、まず安全の確保や状態の安定を優先することがあります。
そのため、初回の相談では「EMDRを受けたい」という希望だけでなく、次のようなこともできる範囲で伝えてみてください。
- 現在もっとも困っている症状
- つらい症状が始まった時期
- 過去の出来事との関連
- 日常生活への影響
- 現在受けている治療や支援
- EMDRについて不安に感じていること
また、カウンセリングを受けることに抵抗があるのは珍しいことではありません。「これくらいで相談していいのだろうか」「過去のことを話したくない」と感じる場合もあります。
心理療法は、つらさを一人で抱え続けることではなく、専門家と一緒に現在の状態を整理し、必要な支援を検討するための方法の一つです。
まずはEMDRに限定せず、「今の自分にはどのような相談が合っているのか」を話してみることから始めてもよいでしょう。Otulikaでは、オンラインで利用できる心理的サポートについて、日本向けのオンラインカウンセリングから確認できます。
よくある質問
EMDRとはどんな療法ですか?
EMDRは、トラウマやつらい出来事に関連する記憶を扱う心理療法の一つです。左右交互の刺激を用いながら記憶を再処理し、記憶に結びついた苦痛の軽減を目指します。
EMDRはどのような人に向いていますか?
主にPTSDなど、過去の出来事が現在の生活や心身の反応に影響している場合に検討されます。ただし、適しているかどうかは症状や現在の状態を踏まえて専門家が判断します。
EMDRのセッションは何回くらい必要ですか?
必要な回数には個人差があります。体験の内容や症状、現在の生活状況などによって異なるため、初回の相談で治療計画や見通しについて確認するとよいでしょう。
EMDRは保険適用になりますか?
EMDRを含むカウンセリングは、医療機関で行われる治療とは異なり、健康保険の対象にならない場合があります。費用や保険適用の有無は、利用する医療機関やサービスに事前に確認してください。
オンラインでEMDRを受けることはできますか?
オンラインでEMDRを提供している専門家もいますが、対応方法や条件は相談先によって異なります。オンラインでの実施を希望する場合は、EMDRへの対応可否や具体的な進め方を事前に確認してください。
EMDRはトラウマ以外にも効果がありますか?
EMDRは主にPTSDに対する心理療法として研究されていますが、PTSD以外のさまざまな症状への応用についても研究が行われています。ただし、適応や有効性については症状ごとに異なるため、専門家への相談が必要です。
EMDRとCBT(認知行動療法)はどう違いますか?
CBTは考え方や行動のパターンに働きかけることを中心とする心理療法で、EMDRはトラウマに関連する記憶の再処理を中心に進めます。どちらが適しているかは、悩みや症状、本人の希望によって異なります。
出典
- WHO. (2013). Guidelines for the Management of Conditions Specifically Related to Stress.
- Bisson JI, Roberts NP, Andrew M, Cooper R, Lewis C. Psychological therapies for chronic post-traumatic stress disorder (PTSD) in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Dec 13;2013(12):CD003388. doi: 10.1002/14651858.CD003388.pub4.
- Watts BV, Schnurr PP, Mayo L, Young-Xu Y, Weeks WB, Friedman MJ. Meta-analysis of the efficacy of treatments for posttraumatic stress disorder. J Clin Psychiatry. 2013 Jun;74(6):e541-50. doi: 10.4088/JCP.12r08225.
過去の体験が今の生活に影響していると感じていても、どのような支援が自分に合うのか分からないことがあります。まずは現在の悩みや不安をカウンセラーに相談し、必要なサポートについて一緒に考えてみることができます。
