PTSDや複雑性トラウマは、過去の出来事が「終わった」後も、身体や心が危険を感じ続ける状態です。この記事では、PTSDと複雑性トラウマの違い、身体に現れるサインの意味、そして回復に向けてどのようなサポートが助けになるかを丁寧にご説明します。「自分だけがこんなに苦しいのだろうか」と感じている方にも、そうした反応は決して異常ではないこと、そして一人で抱え込まなくてもよいことが伝われば幸いです。
PTSDとはどのような状態か
PTSDとは、生命の危機を感じるような出来事や、強いショックをともなう体験のあとに続く心理的な反応です。事故、災害、暴力、虐待などが代表的なきっかけとして知られています。
厚生労働省の調査によると、日本でPTSDを経験する方は決して少なくなく、適切なサポートにつながれていないケースも多いとされています。「気のせいだ」「もう終わったことだ」と自分に言い聞かせても、症状が繰り返されることがあります。
たとえば、交通事故を経験した方が、それ以降は車の音を聞くだけで心拍が速くなる——そうした身体反応がPTSDの一つの形です。出来事の記憶そのものより、身体が先に反応してしまうことが特徴的です。
複雑性トラウマとPTSDの違い
PTSDが一度の衝撃的な出来事に関連することが多い一方、複雑性トラウマ(Complex PTSD:C-PTSD)は、繰り返しや長期にわたるトラウマ体験——たとえば幼少期の虐待、長期的なDV、継続的なハラスメントなど——によって生じることが多いです。
世界保健機関(WHO)が定めたICD-11では、複雑性PTSDは独立した診断として認められています。感情の調節困難、慢性的な自己否定感、対人関係の難しさなど、通常のPTSDとは異なる特徴を持つことが整理されました。
「いつも感情がコントロールできない」「自分には価値がないと感じ続けている」——そのような感覚は、過去の繰り返された体験が心身に刻み込まれたサインかもしれません。性格の問題ではなく、身体と心が生き延びるために身につけた反応です。
身体が警戒し続けるメカニズム
トラウマを体験すると、脳の中にある扁桃体(感情や危険を察知する部位)が過活性化します。神経科学の研究では、トラウマを経験した脳は危険を感知する閾値が下がり、些細な刺激にも強い警戒反応を示すことが確認されています。
身体研究の先駆者であるベッセル・ヴァン・デア・コークは、著書の中でトラウマが身体に刻み込まれるプロセスを詳細に述べています。彼の研究は、トラウマケアに身体へのアプローチが重要であることを広く知らしめました。
たとえば、過去に怒鳴られ続けた経験がある方は、職場で上司が少し声を荒げるだけで、身体が硬直したり動悸が起きたりすることがあります。これは意志の弱さではなく、神経系の自動的な防衛反応です。
日常生活に現れるサイン
PTSDや複雑性トラウマが日常に及ぼす影響は多岐にわたります。睡眠の乱れ、フラッシュバック、特定の場所や状況を避けてしまう回避行動などが代表的です。
また、感情が麻痺したように感じられる時期と、些細なことで感情が溢れてしまう時期が交互に来ることもあります。「自分はおかしい」と感じてしまいがちですが、これはトラウマに対する自然な反応のパターンです。
職場で同僚のちょっとした言葉に過剰に傷ついてしまう、人混みに出ると疲弊してしまう——こうした経験が積み重なると、自己評価が下がり「自分にはなにか問題がある」と思い込みやすくなります。しかし、それはトラウマが影響している可能性があります。
回復に向けて:どのようなサポートがあるか
PTSDや複雑性トラウマには、有効とされる心理的アプローチがいくつかあります。EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)、トラウマに特化した認知行動療法(TF-CBT)、ソマティック(身体志向)アプローチなどが国際的に認められています。
2023年にLancet Psychiatryに掲載されたメタ分析では、EMDRおよびトラウマ焦点化CBTはPTSD症状の軽減において高い有効性を示したと報告されています。一方で、複雑性トラウマのケアには段階的なアプローチが重要とされており、まず安全感の回復から始めることが多いです。
カウンセリングへのハードルを感じる方も多いと思います。「たいしたことではないかもしれない」「人に話すのが怖い」という気持ちは自然です。ただ、回復は一人で達成するものではなく、信頼できる専門家とともに進めていくプロセスです。オンラインカウンセリングなら、自宅から、自分のペースで始めることができます。
カウンセリングを受けることへの不安を和らげるために
日本では、カウンセリングに対して「弱い人が行くもの」「大げさに思われるかも」といったイメージを持つ方も少なくありません。しかし、トラウマの影響は本人の努力や意志とは無関係に起こるものです。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)をはじめとする機関も、早期の専門的サポートがその後の回復に大きく影響することを示しています。「もう少し自分で頑張ってから」と先延ばしにしてしまう前に、まず話を聞いてもらうだけでも、心が少し軽くなることがあります。
プライバシーの面でも、オンラインカウンセリングは安心です。職場や家族に知られることなく、安全な環境でカウンセラーと話すことができます。料金の目安は1回5,000〜12,000円程度で、セッション数や頻度は自分のペースに合わせて調整できます。
よくある質問
PTSDと複雑性トラウマはどう違うのですか?
PTSDは主に一度の強烈な出来事(事故、災害など)をきっかけとすることが多く、複雑性トラウマ(C-PTSD)は長期・反復的なトラウマ体験(虐待、DVなど)によって生じやすいとされています。ICD-11では複雑性PTSDが独立した診断として認められており、感情調節の困難や慢性的な自己否定感など、通常のPTSDと異なる特徴が含まれます。
PTSD 複雑性トラウマは治るのですか?
適切なサポートを受けることで、多くの方が症状の軽減や生活の質の向上を経験しています。2023年のLancet Psychiatryのメタ分析では、EMDRやトラウマ焦点化CBTが高い有効性を示したと報告されています。完全に「なかったことにする」のではなく、過去の体験と共に生きていける力を育てることが回復の目標です。
フラッシュバックとはどのような状態ですか?
フラッシュバックとは、過去のトラウマ体験が突然、まるで「今起きているかのように」感じられる状態です。映像、音、においなどの感覚刺激がきっかけになることが多く、当時の恐怖や身体反応が再び現れます。意志で止めようとしても難しいことが多く、専門的なサポートが助けになることがあります。
子ども時代のトラウマが大人になっても影響することはありますか?
はい、幼少期のトラウマ体験(虐待、ネグレクト、家庭内暴力の目撃など)は、大人になってからの感情調節、対人関係、自己イメージに影響を与えることが研究によって示されています。「昔のことだから関係ない」と思っていても、現在の苦しさのルーツになっていることがあります。
カウンセリングで過去のことを全部話さなければなりませんか?
話したくないことを無理に話す必要はありません。特にトラウマケアでは、安全感を築くことが最初のステップとされています。何をどこまで話すかは、カウンセラーと相談しながら自分のペースで決めることができます。
オンラインカウンセリングでもトラウマのサポートを受けられますか?
はい、オンラインカウンセリングでもトラウマに関するサポートを受けることが可能です。自宅という安心できる環境から受けられること、移動の負担がないこと、プライバシーが守られることなど、対面よりも始めやすい面もあります。ただし、症状の重さによっては対面や医療機関との連携が適切な場合もありますので、初回相談で状況を話してみるのが一つの方法です。
カウンセリングの費用はどのくらいかかりますか?
オンラインカウンセリングの費用は、一般的に1回あたり5,000〜12,000円程度が目安です。カウンセラーの資格や経験、セッションの長さによって異なります。継続的なサポートが必要な場合は、回数プランや定期契約が利用できるサービスもあります。
出典
- 世界保健機関. (2018). ICD-11: International Classification of Diseases, 11th Revision. Geneva: WHO.
- 厚生労働省. (2023). こころの健康について. 厚生労働省ウェブサイト.
- 国立精神・神経医療研究センター(NCNP). (2022). トラウマとPTSDに関する情報. NCNP公式サイト.
- 世界保健機関. (2022). World Mental Health Report: Transforming Mental Health for All. Geneva: WHO.
- van der Kolk, B. A. (2014). The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma. Viking Press.
- Bisson, J. I., Roberts, N. P., Andrew, M., Cooper, R., & Lewis, C. (2013). Psychological therapies for chronic post-traumatic stress disorder in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews. Cochrane Library.
- Mavranezouli, I., Megnin-Viggars, O., Grey, N., et al. (2020). Cost-effectiveness of psychological treatments for post-traumatic stress disorder in adults. PLOS ONE. PLOS ONE.
もし、この記事を読んでご自身やご家族のことが少し気になった方がいれば、一人で抱え込まずに、一度カウンセラーと話してみませんか。話すだけでも、気持ちが整理されることがあります。
