感情を抑え込むことは、日本社会では「大人らしさ」や「気遣い」として評価されることがあります。しかし、怒りや悲しみ、不安といった感情を繰り返し押し殺していると、心と体の両方に少しずつダメージが蓄積されていきます。この記事では、感情を抑え込む習慣がもたらす心理的・身体的な影響を、研究データを交えながらわかりやすくご説明します。「自分の感情くらい自分でコントロールできる」と思っている方にこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。感情との上手なつき合い方や、一人で抱えきれないときの選択肢についても触れていきます。

「感情を抑え込む」とはどういう状態か

感情を抑え込む、心理学では感情抑制(emotional suppression)と呼ばれるこの状態は、単に「感情を表に出さない」こととは少し異なります。感情そのものをなかったことにしようとする、あるいは感じていないふりをする——そうした内的なプロセスを指します。

たとえば、上司から理不尽な指摘を受けても「ここで怒ったら終わり」と自分に言い聞かせ、感情ごと飲み込んでしまう。あるいは、大切な人を亡くしても「泣いたら周りに心配をかける」と涙をこらえ続ける。そういった場面が思い当たる方は多いのではないでしょうか。

感情を感じた上で表現を選ぶ「感情調整」とは異なり、感情抑制は感情そのものをなかったことにしようとします。この違いが、心身への影響を大きく左右します。

感情を抑え込むと心に起きること

スタンフォード大学のジェームズ・グロス博士らの研究では、感情抑制を習慣的に行う人は、そうでない人と比べて不安やうつ症状が強く、主観的な幸福感が低い傾向があることが示されています。感情は抑えれば消えるわけではなく、内側でくすぶり続けます。

蓄積された感情は、やがて慢性的なストレス感や、理由のわからないイライラ、無気力感として表れることがあります。「なぜこんなに疲れているのだろう」「何もしていないのに気力が湧かない」という状態は、感情の抑え込みが一因である場合も少なくありません。

また、自分の感情を長期間無視し続けると、次第に「自分が何を感じているのかわからない」という状態——感情失認(アレキシサイミア)に近い状態になることもあります。感情とのつながりが薄れると、人間関係においても距離感が生まれやすくなります。

感情を抑え込むと体に起きること

心と体は密接につながっています。感情を抑え込む習慣は、身体症状としても現れやすいことが、複数の研究で確認されています。

2013年にハーバード大学公衆衛生大学院が発表した研究では、感情を抑圧している人はそうでない人と比べて、早期死亡リスクが約35%高かったと報告されています。また、慢性的な感情抑制は免疫機能の低下、血圧の上昇、消化器系の不調、睡眠の質の悪化といった身体への影響とも関連が指摘されています。

「胃が痛い」「頭が重い」「なかなか眠れない」——これらの症状に明確な身体的原因が見つからないとき、感情の抑え込みが背景にある可能性も考えてみるとよいかもしれません。体は、言葉にできない感情のサインを出していることがあります。

日本社会と感情抑制——文化的な背景

日本では「空気を読む」「感情を表に出さない」ことが社会的に評価される場面が多くあります。特に職場では、感情を見せることが「プロフェッショナルでない」と受け取られることもあります。

厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活に強いストレスを感じている労働者の割合は約54%にのぼります(2022年労働安全衛生調査)。しかし、そのストレスを誰かに相談したり、専門家に頼ったりする人はまだ少数にとどまっています。「自分で何とかすべき」「人に迷惑をかけたくない」という感覚が、感情を抑え込む習慣をさらに深めているのかもしれません。

感情を感じることは弱さではありません。むしろ、自分の内側で何が起きているかに気づく力は、心の健康を守るために大切な感覚です。

感情と上手につき合うためにできること

感情を抑え込む習慣を変えるためには、まず「感じていい」という許可を自分に与えることが出発点になります。感情は善悪のないもの。怒りも悲しみも不安も、あなたの中にある自然な反応です。

日記に感情を書き出すジャーナリングは、感情を整理する方法として研究でも効果が示されています。テキサス大学のジェームズ・ペネベーカー博士の研究では、感情的な体験について書くことが、免疫機能の改善やストレスホルモンの低下につながることが示されました。特別なスキルは必要なく、「今日、自分はどう感じたか」を書くだけで構いません。

また、信頼できる人に話すことも有効です。「愚痴を言うのは迷惑」と感じるかもしれませんが、感情を言語化して共有することは、心の処理を助ける自然なプロセスです。もし身近に話せる人がいない場合は、カウンセラーという選択肢もあります。

カウンセリングで感情を安全に扱う

カウンセリングは、精神的に「重症」の人が行く場所——そんなイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし実際には、「なんとなくしんどい」「自分の感情がよくわからない」という段階からでも、カウンセリングを活用することができます。

カウンセラーとの対話の中では、普段は抑え込んでいた感情を、安全な場所で少しずつ言葉にしていくことができます。批判されることなく、ただ聴いてもらえる時間——それだけでも、心の重さが変わると感じる方は多くいます。

オンラインカウンセリングであれば、自宅から、自分のペースで受けることが可能です。周囲に知られる心配もなく、まずは話してみるだけという感覚で始めることができます。料金は1回あたり¥5,000〜¥12,000程度が一般的な相場です。

よくある質問

感情を抑え込むのが癖になっているかどうか、どうすればわかりますか?

「なぜか理由もなく疲れている」「感情が動かなくなってきた」「怒っていいはずなのに怒れない」と感じることが続く場合、感情抑制が習慣化しているサインかもしれません。自分の感情に気づきにくくなっていると感じたら、一度立ち止まって振り返ってみるとよいかもしれません。

感情を抑え込むと、うつ病になりやすいですか?

直接の因果関係を断言することは難しいですが、感情抑制とうつ症状の関連を示す研究は複数あります。スタンフォード大学の研究では、感情抑制を習慣的に行う人にうつや不安の症状が多く見られることが示されています。感情を抑え込む習慣が続くようであれば、早めに専門家に相談してみるのも一つの選択肢です。

感情を表に出すのが苦手でも、カウンセリングを受けられますか?

はい、むしろそのような方こそカウンセリングが助けになることが多くあります。カウンセラーは感情表現を強要するわけではなく、あなたのペースに合わせてサポートします。うまく言葉にできなくても大丈夫です。

オンラインカウンセリングは対面と効果が変わりますか?

複数の研究で、オンラインカウンセリングは対面と同等の効果があることが示されています。特に認知行動療法(CBT)においては、オンラインでの実施効果を支持するエビデンスが蓄積されています。自宅でリラックスした状態で受けられる点が、かえって話しやすいという方も多くいます。

感情 抑え込む 習慣は、大人になってから変えられますか?

変えることは十分に可能です。感情の処理パターンは長年の習慣で形成されますが、適切なサポートがあれば少しずつ変化していきます。カウンセリングやマインドフルネスの実践が、感情との関係を変えるうえで有効だとされています。焦らず、小さな一歩から始めることが大切です。

職場のストレスで感情を抑え込んでいます。誰にも言えないのですが……

「職場のことを外で話してはいけない」と感じている方は多くいます。しかしオンラインカウンセリングは匿名性が高く、プライバシーも守られます。職場の人間関係やパワハラ、過重労働のストレスは、カウンセリングでよく扱われるテーマの一つです。一人で抱え込まなくていい場所が、あなたには必要かもしれません。

カウンセリングにはどのくらいの頻度で通うものですか?

一般的には週1回または隔週1回のペースで行われることが多いですが、状況やご本人の希望によって異なります。最初は1回だけ試してみるという形でも構いません。継続するかどうかは、最初のセッションを受けてから決めることができます。

出典

  • Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362. https://doi.org/10.1037/0022-3514.85.2.348
  • Pennebaker, J. W. (1997). Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychological Science, 8(3), 162–166. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.1997.tb00403.x
  • Nolen-Hoeksema, S., Wisco, B. E., & Lyubomirsky, S. (2008). Rethinking rumination. Perspectives on Psychological Science, 3(5), 400–424. https://doi.org/10.1111/j.1745-6924.2008.00088.x
  • 厚生労働省. (2022). 令和4年労働安全衛生調査(実態調査). https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r04-46-50b.html
  • 世界保健機関(WHO). (2022). World Mental Health Report: Transforming Mental Health for All. https://www.who.int/publications/i/item/9789240049338
  • 国立精神・神経医療研究センター(NCNP). こころの情報サイト. https://kokoro.ncnp.go.jp/
  • Andrews, G., Cuijpers, P., Craske, M. G., McEvoy, P., & Titov, N. (2010). Computer therapy for the anxiety and depressive disorders is effective, acceptable and practical health care. PLOS ONE, 5(10), e13196. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0013196

もし感情の抑え込みについて、誰かに話してみたいと感じたら、一度カウンセラーと話してみませんか。自分の感情に気づくための時間を、Otulikaで始めることができます。

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